SHORT COLUMN
ショートコラム
甘夏のはじまり 第4章_はじまりの場所
甘夏のはじまり
この夏、ウェブエイトのメンバーが交代で綴るショートストーリーをはじめます。
台本やルールはありません。
登場人物も、物語りの舞台も、自由自在。
このあと、どう展開するかも、その人次第です。
決まっているのは、「甘夏のはじまり」というタイトルのみ。
第4章は、はじまりの場所に戻ります。
それではスタート〜!
■
このカフェは毎朝7時にオープンしている。
朝早く起きて、ゆっくり過ごす時間の素晴らしさをぜひたくさんの人に知ってもらいたい。
今日も開店してすぐに、女性が入ってきた。
レジ前で待機していると、お客さんがプレッシャーを感じるので、準備をしながらさりげなく注文を待つ。
「あーもー、財布がない」
大きなひとり言が聞こえてきたのでちらと後ろを見ると、ひとり言を言った女性の後ろに、夏実ちゃんが立っていた。
夏実ちゃんは、最近この時間によく来てくれる常連の女の子だ。
その名前の通り、夏がよく似合う明るい女の子で、彼女を中心にお客さん同士が話したり、僕をその輪に入れてくれたりする。
みんな彼女が大好きだった。
「よかったら、私のモーニングチケットをどうぞ。」
そう言って夏実ちゃんが、女性にチケットを手渡した。
また彼女のファンが増えるな…と思い、自然と笑顔になりそうになっている口元を慌てて引き締める。
「えっ、いいんですか!? すみません! 近くに泊まってるので、あとでお財布持ってきますね!」
「全然、大丈夫ですよ! 旅行ですか?」
夏実ちゃんと女性はレジそっちのけで楽しそうに会話を始めた。
僕は、この仕事を始めてから、もっとこの街のことが好きになった。
普段この街で暮らしている人、旅行でこの街を訪れた人、一人で街をブラブラしている人、デート中のカップル、家族連れ、、たくさんの人がこの場所を訪れる。
人と人とが交流するカフェをつくりたいと思っていたけれど、逆に僕がたくさんの人に出会わせてもらっている。
この場所が人と人とを繋げる場所になることがとても嬉しい。
そんなことを思いながら、コーヒーを入れた。
■
「今日もお疲れ様でしたっ」
1日の仕事を終えて、達成感を味わう感覚がとても好きだ。
明日は定休日だし、このまま飲みに行ってしまおうか。
お店の鍵を閉め、疲労感と達成感を同時に味わいながら、行きつけのバーに向かった。
一人で飲みたいときは大抵ここに来る。
マスターのお客さんとの距離感が絶妙で、いつも勉強になるなあと感心する。
「こんばんはー。」
階段を上がりお店のドアを開けると、カウンターに見覚えのある女性が座っていた。
振り向いたその女性も気づいたらしく、あっという顔をした。
「こんばんは、あの、今日お店に来てくださいましたよね?」
一人で飲んでいるところへ話しかけるのは勇気がいるが、目が合ったのに知らんぷりをする方が気まずかった。
「こんばんは。偶然ですね。よかったら一緒に飲みませんか?」
女性はそう答えてくれた。
「じゃあ、隣、失礼します。」
■
カクテルそれぞれ2杯ずつで、数時間、彼女といろいろなことを話した。
松本のこと、仕事のこと、夏実ちゃんのこと。
彼女もひどく夏実ちゃんのことが気に入っているようだった。
「また会えるかしら。」
「彼女は最近よくあの時間に来てくれるので、松本にいるうちにまたぜひ来てください。」
そうして彼女と別れ、ほろ酔いのいい気分で家路に着いた。
あ、そういえば明日が定休日だということを伝え忘れてしまったな。
けれど、松本が大好きな彼女なら、きっと他にも行きたい店がたくさんあるだろう。
テレビを付けて、ソファに倒れ込む。
明日が休みで嬉しいはずなのに、少し残念な気持ちになっているのはなぜだろう。
テレビから聞こえる天気予報は、明日が雨だということを告げていた。
ウェブエイトメンバーで飲みに行くときはよく2軒目でここに入ります。 facebook:https://www.facebook.com/ENTRANCEBARPORTER/ |
writing by eriko gomi