SHORT COLUMN
ショートコラム

甘夏のはじまり 第5章_涼の場合

甘夏のはじまり

この夏、ウェブエイトのメンバーが交代で綴るショートストーリーをはじめます。
台本やルールはありません。
登場人物も、物語りの舞台も、自由自在。
このあと、どう展開するかも、その人次第です。
決まっているのは、「甘夏のはじまり」というタイトルのみ。

夏実が憧れた涼の3年間とは・・・

これまでのダイジェスト
※この物語は全てフィクションです。

人の記憶というのは不思議なもので
匂いだとか、音楽だとか、声だとか・・・

何か小さなきっかけ一つで、
忘れかけていた
あの時の記憶が蘇ってくる。

「甘夏さん?」

どこか聞き覚えのある懐かしい響きに
私の記憶は一瞬にして3年前のあの日に巻き戻った。

そう。
今、私の隣に座っているのは
まぎれもなく3年前、このカフェで出会ったあの人だ。

立花涼。

その時は名前も尋ねなかったし
私も自分の名前を伝えることもなかった。

私は彼女みたいに
一人で旅に出る勇気もなかったし
幼い頃から何をやっても
一番になったことなんて一度もなかったし
ずっと自信もなかった。
だから、あの時出会った
凛とした姿のあの人にずっと憧れ続けていた。

私がなりたくてもなれなかった憧れの女性。

でも、
今私の隣に座る女性には、
あの時の凛とした姿は
どこにもなかった。

3年という月日が
こんなにも人を変えてしまうのかと
ちょっと残酷な感じさえした。

まさか彼女が、ここ松本の人と結婚をして
2年以上も同じ町に住んでいるなんて想像もしなかった。

涼さんがくまさんと出会ったのは、このカフェで私が

「よかったら、私のモーニングチケットをどうぞ。」

そう声をかけた日の翌日だったと言う。

涼さんは、乱れたまとめ髪を気にする様子もなく
焦点が合わず呆然と空を仰ぐようにして、
これまでのことを私に話し続けた。

くまさんこと、熊川 浩司は
松本で創業65年目の建設会社”熊川組”の3代目社長だという。

涼と結婚してからちょうど1年ほど経った頃
2代目社長だった父親が63歳で突然急死し
くまさんは34歳という若さで会社を継いだ。

市内にある住宅メーカーに営業として勤務していたが
家業の会社経営などには全く関わっていなかった。
創業65年3代目として会社を継承したプレッシャー、
そして何よりも30名の従業員を率いていくこと
全てが一杯一杯だった。

突然3代目を継いだくまさんへの従業員の信頼はゼロだった。
従業員同士は悪口を言い合い、
社内ではたちの悪いいじめのようなものまであるようだ。
現場の職人はみな頑固で
若い社長を全く受け入れなかった。

2代目の死後、時期を同じくして公共工事も減り始め、
県外からのマンションデベロッパーが参入してくることで
下請け業が多くなった。

さらにここ数年、消費税増税や
景気回復の恩恵を受けないサラリーマンたちには安い住宅メーカーが人気で
個人住宅の受注も年間4〜5棟ほどとなってしまい
経営が逼迫していた。

職人たちの仕事は雑になり、欠陥住宅だとクレームが入り
社長であるくまさんが頭を下げて回る日々だったという。

涼:「もう私、プレッシャーに押しつぶされそうになってる
くまさんのあんな姿を見ていられない・・耐えられない・・・
それに、義理のお母さんとも同居していて
子育てのことだとか家のことだとか口うるさく言われるの・・・
365日、毎日お義母さんと顔を突き合わせてるのは
本当にストレスなのよ。
今はこんな状況だから、くまさんを支えるためにも
熊川組の仕事を手伝っているわ。
私だって精神的にもキツイのに
社長の妻っていう立場で誰にも頼れないの・・・
くまさんが会社を立て直して継続していくにはどうしたらいいのか・・・・
私にだってわからないわ・・・」

そんな中、数日前に地元新聞に掲載された
私のインタビュー記事を見たのだそうだ。

それで私が「佐々木夏実」だってことや
ブランディングやWeb制作をしている会社に務めていることを知ったらしい。

企業にブランディングを導入することで
従業員の意識改革や事業改善を行い
新しいビジネスの立ち上げに携わったり
集客数を増やしているという実績を見て
とにかくすがるような思いで
私に会いたいと思っていたと言う。

そして今日偶然にも
その悲痛な思いが届いたのか
神様が手を差し伸べてくれたのか
私と涼さんは、またこのカフェで
こうして再会することとなった。

涼さんの3年間にあった出来事の全てと
一通り熊川組の現状を聞き
私はなんとしてでも力になりたいと思い
会社訪問する約束をして、
その日は涼さんと別れた。

「甘夏のはじまり シーズン2」決定!
秋頃の配信をお楽しみ!

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