SHORT Essay
ショートエッセイ
空想旅行のすゝめ04”空想親子旅行”
空想旅行のすゝめ
頭の中はとっても広いから、旅に出よう
第二弾は旅をテーマにしました。
今はコロナで、旅に出ることはできません。
でももしできるならどこに行きたい?何をしたい?
4回目は、大人になった娘と父との空想親子旅行。
■
このエッセイはエッセイと言いつつも全編フィクション(^^)
実際とは異なる場合があると思われます。
お出かけされる際は、事前にご自身で調べていただくことを
おすすめします。
それでは想像の翼を広げていざ出発!
■
~プロローグ~
突然父が京都の伏見稲荷へ行きたいと言い出した。
なんでも、郷土史に興味のある父が
近所のお社を調べていた時に、
伏見稲荷大社の方にお世話になったからだと言う。
これが父と私の親子旅のきっかけとなった。
新緑の美しい季節の電車旅。
地元の駅を出発し、松本駅で乗り換えて
特急しなので名古屋へ。
そこから東海道新幹線で京都へ向かう。
結婚し家を出て20年。
父と二人きりになるのも久しぶり。
最初は何を話していいのやらと思っていたが、
いざ出発してみればそんな心配はどこ吹く風。
話題が尽きることもなく会話は弾んだ。
親子とは不思議なもので、長いこと一緒に暮らしてきたはずなのに、
意外と深い話はしたことがなかったり、
知らないことがたくさんあるものなのだなぁと気づかされる。
今回の旅のきっかけでもある、父が郷土史に興味を持っていることも初耳だった。
ばらばらに生活していて、話をする機会はなかなかないが、
もっとたくさん会話をして、もっとたくさん父という人を知りたい気持ちになった。
会話を楽しみつつ、特急しなのの車窓から外の景色に目をやる。
淡い緑と深い緑が入り混じった山々が、グリーンの大きなまだら模様の絨毯のよう。
そこにポツポツと山桜だろうか、花が咲いていたりと、自然がとにかく美しい。
しばらくいくと、その山々の下にこれまたきれいなヒスイ色の木曽川。
若々しい緑や、花が咲き乱れる生命力にあふれたこの季節の景色が私は大好きだ。
「こりゃぁきれいだ。いい時に来たや。」
と言う父の横顔を見て、景色がきれいに見える指定席をとっておいて良かったなぁと、
私もうれしい気持ちになる。
大好きなものや景色を大好きな人と共有できるって幸せだ…。
時間が経つにつれ、景色はだんだんと、淡いグリーンから濃いグリーンへ変化していく。
わずか数時間の間に季節が進む。
まるでタイムマシーンに乗っているみたいだ。
それもこの時期ならではの楽しみかもしれない。
そうこうしているうちに名古屋に到着。
新幹線に乗り換えいよいよ京都へ!
■
~いざ伏見稲荷大社へ~
京都駅からさらに電車を乗り継ぎ、
伏見稲荷大社最寄りの稲荷駅に到着した。
お昼時ではあったが、電車の中で少々おやつを食べ過ぎてしまったのもあり(笑)
とにかく目的地の伏見稲荷大社へ向かうことになった。
駅から歩いて5分ほどで到着。
大きな朱色の鳥居と、楼門に圧倒される。
よく見ると、狛犬ではなく狛狐(白狐)が門の両側に鎮座している。
ここ伏見稲荷大社は、全国に約3万ある稲荷神社の総本宮。
五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、諸願成就の神様として古くから庶民の信仰を集めた神社とのこと。
有名な千本鳥居は、実は1万基以上あり、今も増え続けているのだとか。
小さなものは直径15㎝のものから奉納でき、さっそく名前を書いて奉納した。
お世話になった感謝の気持ちとそれぞれの願いを込めて、本殿で参拝。
その後、あの有名な千本鳥居の続く道を進んでいく。
写真で見るだけではわからない、神秘的で厳かな空気を感じる。
鳥居と鳥居のすき間から射す光が美しい。
しばらく進むと、奥社奉拝所に到着。
ここにはいろいろな顔をした狐の顔の絵馬が沢山奉納されている。
自分で顔の表情を描き込むことができるので、全部表情が違っておもしろい。
私も描いてはみたものの、絵心のない私の狐は申し訳ない出来に…。
そっと目立たないところに奉納した(笑)。
奥社奉拝所も参拝し、近くの名物「おもかる石」へ。
まずは願い事をして、そこに置かれた石灯籠の上の石の重さを想像する。
そのあと実際に石灯籠の上の石を持ち上げ、
自分が想像していたよりも軽ければその願いは叶うというもの。
さっそく父からやってみる。
「うーん?軽い?軽いかな?」
ニコニコしながら頭をかしげる父。
次は私。
「おもっ。重いよ!えー願い事かなわないのかな?(泣)」
そんなやりとりをしながら、笑い合う。
私の結果はちょっと残念だったが、
この石に触れられただけでもパワーをもらえたような気がした。
ここからさらにたくさんの鳥居をくぐりひたすら階段を上って山頂までを往復するという
お山巡りにも、せっかく来たのだからとチャレンジすることにした。
往復2時間ほどかかるらしい。
ひたすら階段を上っていく。
すぐにふくらはぎがパンパンになってくる。
息もゼーゼー。
一方父は私より歳が上なはずなのに、
若い時から登山好きだったことや、普段から畑仕事をしているせいか、
ゆっくりではあるものの、ペースを落とさず登っていく。
自分の日頃の運動不足を実感する。
途中、眼下に京都市内を一望できるスポットがあり、
そこのお茶屋さんでひと休みすることにした。
甘いお菓子と、おいしいお茶が体に染み渡っていく。
父も「こりゃおいしいや。」といいながらお菓子を口に運ぶ。
充電完了!
その後もゆっくり、途中休みながらも頂上を目指す。
父の後を私が着いていく。
ふと子供の頃、父にあちこち連れて行ってもらったことを思い出す。
そして、お互い歳をとったのだなぁとも急に実感させられる。
1時間ほどかけて無事頂上に到着!
想像以上にきつかったけれど、達成感はハンパない。
そして風が気持ちいい。
桜はないけれど、今の季節は今の季節の気持ちよさがある。
帰りも長い長い階段をゆっくり下る。
途中すれ違う人と交わすあいさつや、ちょっとした会話も心地よい。
疲れていてもあたたかい気持ちになる。
帰り道は休憩もすることなく、大きな鳥居まで一気に戻ってきた。
早速近くのいなり寿司が有名な食事処に入り遅い昼食を食べ、
少し早めに宿へ向かった。
■
宿泊したのは京都御所近くにある旅館。
しばらくのんびりして、お風呂に入り、
おいしい食事をいただいて、布団に横になる。
疲れですぐにも眠ってしまいそうだ。
眠りにつく直前、父とこうして枕を並べて寝たのはいつぶりだろうと考える。
私の大学の入学式に出席するため、一人暮らしを始めたばかりのアパートに来てくれた時以来だと思い出す。
“大切に育ててくれてありがとう”
ふとそんな気持ちが改めて湧いきて、なぜか涙がこぼれそうになる。
しばらくすると隣から、父の寝息が聞こえてきた。
(本当は寝息だけではなく、いびきまじりだったのはここだけのヒミツ)
父はどんなことを考えながら、思いながらこの旅行をしているんだろうと考えながら、
私も眠りについた。
■
~エピローグ~
2日目、事前に参観予約してあった京都御所へ。
その後、京都駅でお土産を買って帰路についた。
さすがに2日間歩き回ったので、疲れから会話は少なくなる。
それでも父の顔は念願叶った、充実した表情に見えた。
不思議なもので、旅行は行く時よりも帰りのほうが時間が短く感じる。
行く時とは逆の季節の変化を感じながら、うとうとしていると
あっという間に最寄り駅が近づいてきた。
「疲れた?大丈夫?」
と父に声をかける。
「疲れたけど、大丈夫。一緒に来てくれてありがとう。」
と父。
「こちらこそ一緒に行けて良かったよ。また行きたいね。」
と私。
ただの親子旅行と思って出発した今回の旅。
思いがけず、父という人をより知ることができたり、
親子について改めて考えてみたり、
ノスタルジックな気持ちに浸ったり、
今までしてきた旅行では味わうことのできない経験ができた旅だった。
今度は母と行こうか。
それとも家族で行くのもいいかもしれない。
でもそれはそれで、家族みんなの意見がまとまるだろうか?
と早くも次の旅行に思いを巡らせた。